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福岡地方裁判所 昭和44年(ワ)721号 判決

原告 株式会社福岡銀行

右代表者代表取締役 蟻川五二郎

右訴訟代理人弁護士 佐藤安哉

被告 宗二三男

〈ほか一名〉

右両名訴訟代理人弁護士 岩本斡生

主文

一、被告宗二三男は、別紙第二物件目録記載の建物につき、福岡法務局昭和四四年三月二二日受付第八、一三九号をもって同被告のためなされている所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

二、原告の被告内野光雄に対する第一次及び第二次の各請求を棄却する。

三、被告内野光雄は原告に対し、別紙第二物件目録記載の建物につき、別紙根抵当権設定登記手続をせよ。

四、訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

1、被告宗二三男に対する請求

(第一次請求)

主文第一項同旨。

(第二次請求)

被告宗は、別紙第二物件目録記載の建物(以下乙建物と称する)につき、被告内野に対する所有権移転登記手続をせよ。

(第三次請求)

(一) 被告内野が昭和四四年二月中旬頃乙建物を訴外内野義則に譲渡した行為は、これを取消す。

(二) 前記第二次請求と同旨。

2、被告内野光雄に対する請求

(第一次請求)

被告内野は、別紙第一物件目録記載の建物(以下甲建物と称する)につき、種類を事務所兼居宅、床面積を壱階壱六八・〇弐平方メートル、弐階壱参五・〇平方メートルと各更正登記手続をせよ。

(第二次請求)

被告内野は原告に対し、甲建物につき、乙建物を附属建物とする表示変更の登記手続をせよ。

(第三次請求)

主文第三項同旨。

3、訴訟費用の裁判

主文第四項同旨。

二、被告両名の申立

1、原告の各請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張≪以下事実省略≫

理由

一、請求原因第1項の事実、同第2項の事実中乙建物の関係を除く事実及び乙建物について原告主張のとおり建物表示の登記及び被告宗名義の所有権保存登記のなされた事実は、いずれも各当事者間に争いがなく、乙建物(これが甲建物と一体をなす構成部分であるか否かの点をしばらく措く)がもと被告内野の所有であることは、被告らの認めるところである。

二、そこで、甲乙両建物の関係及び乙建物についての原告主張の根抵当権設定の有無につき判断する。

(1)  甲乙両建物が福岡市内の川端商店街の中に位置し、道路に面しているのは甲建物のみで、その裏にある乙建物に達するには甲建物の内部を通行しなければならない構造になっていること、甲建物は、被告内野の長男義則が代表取締役をしている訴外株式会社ダイアナの靴販売営業の店舗として使用され、乙建物は義則とその家族の住居として使用されていることは、いずれも各当事者間に争いがない。

検証の結果によると、甲乙両建物は、いずれも木造二階建であるが、その敷地である長方形の原告主張の宅地上の殆ど全面にわたってきわめて接近して建てられ、不透明プラスチック波板を双方の二階屋根の間に張り渡して接続してあるが、建物の構造としてはそれぞれ全く別棟の独立家屋であること、甲建物は店舗または事務所用の構造で、乙建物は純然たる住居用の構造であること、右敷地の道路に面する部分は全部甲建物の店舗間口で、他の隣地境界はすべて隣家壁またはブロック塀で仕切られていること、乙建物に入るには表道路より甲建物階下店舗内を通り、甲建物裏側出入口より出て、乙建物との中間の土間を経るものであること、以上の事実が認められる。

≪証拠省略≫によると、甲建物及び前記敷地は昭和二七年六月被告内野が買受け取得し、乙建物はその後昭和二九年に同被告が新築したもので昭和四四年三月二二日前記建物表示の登記がなされるまで未登記のままであったこと、被告内野は株式会社ダイアナを設立してその代表取締役をしていたが、他に訴外九州信販株式会社の代表取締役をしたり、その他企業関係の諸団体の役員をしていた関係もあって昭和三五年頃より甲建物における株式会社ダイアナの営業を長男義則に任せ、昭和四〇年八月頃その代表取締役を義則と交替したこと、右時期以前より同被告は従来居住していた乙建物から住居を他に移し、それ以来乙建物は義則とその家族及び同会社の住込み従業員の住居として使用されていること、以上の各事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(2)  原告は乙建物は甲建物の増築部分として甲建物と一体をなすものと主張するが、前記事実によると、乙建物は甲建物の増築部分ということができないのは明らかである。

そして、前記事実によると、乙建物へ達するには甲建物内部の通行を必要とする位置関係にはあるが、甲乙両建物は、その各構造上完全に独立別個の建物であり、それぞれの構造上の用途に従って各自個別に使用しうるものであるのみならず、乙建物はこれに甲建物内部を通行する権利を付して独立の取引の目的物とすることが可能なものであるから、乙建物自体一個の所有権の目的たる不動産と認めるのが相当である。

従って、甲建物についてなした根抵当権設定契約の効力が当然に乙建物に及ぶものということはできない。

(3)  そこで、進んで乙建物についての根抵当権設定の合意の有無につき判断するに、≪証拠省略≫を綜合すると、昭和四二年五月六日なされた争いのない甲建物及び前記敷地についての原告主張の根抵当権設定契約の締結に当り、設定者である被告内野は、原告の要求に応じ、根抵当に供すべき物件の見取図として、甲乙両建物を一体の建物として記載した図面を原告に交付し、甲乙両建物とその敷地である前記宅地一筆に根抵当権を設定することを約束し、原告も乙建物を甲建物の構造部分と解して右設定を受けたものであって、原告と同被告との間の前記根抵当権設定契約においては、右宅地及びその地上に建設されている全部の建物をもって根抵当権の目的物件とする約束がなされたことを認めることができ、右認定を動かすに足りる証拠はない。

そうすると、契約当事者双方の意思を解釈すれば、乙建物についても、これを根抵当権設定の目的物としたものと認めるべく、また、反対の事実を認めると足りる証拠のない本件においては、その後になされた争いのない元本極度額変更の契約における合意は、乙建物に対する根抵当権についても、これがなされたものと認めるべきである。

もっとも、右根抵当権設定契約の約定書と認められる成立に争いのない甲第六号証には、根抵当権設定の目的物件として、右宅地のほか、建物については甲建物の表示しか記載されていないが、この点については、≪証拠省略≫によると、当時乙建物は未登記のままであったことと、契約の両当事者共に乙建物は甲建物の構成部分として一体をなすものと観念していた関係で、右約定書には甲建物の表示のみを記載したものであること(従って、乙建物については保存登記も根抵当権設定登記もなされなかったこと)が認められるから、同号証の記載も、前認定の妨げとなるものではない。

三、次いで被告ら抗弁に係る乙建物の所有権移転の事実につき判断するに、先ず、被告ら主張の被告内野より長男義則に対する乙建物譲渡の事実を認めるに足りる証拠はない。

もっとも、証人内野義則は、昭和三五年頃義則がその父である被告内野から株式会社ダイアナの経営を委ねられた際、同時に同被告から乙建物を取得した旨の供述をするが、右供述自体あいまいなもので、結局は、義則が被告内野の後継者として右会社の経営を担当するに至った結果、当然に乙建物の所有者となったものと解するという趣旨に尽きるものであるから、右被告ら主張事実を認める証拠として採るに足りないし、また、≪証拠省略≫中には、右被告主張に副うかのような供述部分があるけれども、右は、他の供述部分と対照すると、結局は、昭和四〇年八月に前記会社の代表者を義則と交替するに当り、将来、義則に所有権を移転することを予定して、甲乙両建物及びその敷地等を義則の管理に委ねたとの趣旨に帰するもので、これを採って前記被告ら主張事実を認める証拠となすに足りない。

そうすると、他に義則への所有権移転の主張立証のない本件においては、乙建物の所有権は依然被告内野にあるというべきであり、被告ら主張の義則と被告宗との間の乙建物譲渡の契約の有無及び原告主張の詐害行為取消の成否の判断に立入るまでもなく、被告宗の所有権取得の主張は採用できない。

従って、当事者間に争いのない被告宗名義の本件所有権保存登記は、実体上の権利と合致しない不実の登記ということができる。(≪証拠省略≫を綜合すると、被告内野は、原告の要求に応じ、本件土地建物全部を他に売却処分して債務の弁済資金を得ようとし、昭和四四年二月一九日頃義則に対し、同人及び株式会社ダイアナの退去明渡につき同意を求めたところ、義則はこれに対し強硬に反対し、被告内野に迫って、右土地建物の処分を禁止する趣旨で同被告から登録印鑑等を取り上げたうえ、その後これを使用して本件所有権保存登記手続をなしたものであることが認められる。)

四、よって、乙建物の根抵当権者として被告内野に対し設定登記手続を請求する権利を有する原告は、同被告に代位して被告宗に対し、同被告名義の本件所有権保存登記の抹消登記手続を請求できるものといべく、その趣旨の原告の同被告に対する本訴第一次の請求は理由がある。

五、次に、原告の被告内野に対する請求については、乙建物が甲建物とは別個の独立の不動産であることは前示のとおりであるから、これが甲建物の構成部分であることを前提として、甲建物につき建物の種類及び床面積につき更正登記手続を求める第一次請求は理由がない。

六、 さらに、原告は乙建物が甲建物の附属建物として登記さるべきものと主張し、第二次請求として、甲建物につきその旨の建物の表示変更の登記手続を求めるものである。

不動産登記法上の附属建物とは、実体法上主たる建物の従物たる関係に立つと否とに係わらず、主たる建物の用途と関連する用途に供するものであるため、主たる建物とその権利の帰属を一にすることを目的とし、主たる建物の所有者がこれに登記上附属せしめた他の所有建物であり、附属建物として登記するか否かは、専ら所有者の意思にかかるものというべく、このことは、同法九四条及び九五条において附属建物を主たる建物より分割し、別個の主たる建物としてまたは他の建物の附属建物として登記することを認めていることからも明らかである。

もっとも、原告は、甲建物の表示変更の登記として、同法九三条の八に規定する附属建物の新築の登記手続を求めるもののようでもあるが、本件の場合、乙建物はすでに独立の主たる建物として表示の登記を了している(右請求もこれを前提としている)ので、同一の乙建物についてさらに前記新築の登記をすることはできないものであるから、建物合併の登記(同法九八条一項集照)を請求しているものと解すべきである。

そして、すでに主たる建物として表示の登記済の乙建物を、他の建物である甲建物の附属建物として登記するか否かは、所有者たる被告内野の意思にかかるものである以上(前認定の甲乙両建物の構造及び使用の関連関係の事実に照せば、乙建物を甲建物の附属建物として登記するのは不適当ではないと認められるけれども、かような場合においてもなお)、当事者間の合意等特段の事情の証拠上認められない本件においては、原告より同被告に対し、右附属建物とする合併の登記手続を請求し得る限りではない。

のみならず、甲建物には所有権以外の権利である原告主張の根抵当権設定登記が存するのであるから、不動産登記法九三条の四の規定により、もとより合併の登記をすることは法律上なし得ないものである。

よって、原告の被告内野に対する第二次請求もまた理由がない。

七、しかし、被告内野は原告に対し、乙建物につき、原告主張の根抵当権設定を約し、右設定契約につき原告主張の元本極度額変更の契約がなされたものであることは、前示のとおりであるから、同被告は乙建物につき原告主張の内容の根抵当権設定登記手続をなすべき義務があり、その履行を求める原告の同被告に対する第三次請求は理由がある。

八、よって、原告の被告宗に対する第一次請求を正当として認容すべく、被告内野に対する第一次及び第二次請求を失当として棄却し、第三次請求を正当として認容すべきものとし、民事訴訟法第八九条、九二条、九三条一項本文に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺惺)

〈以下省略〉

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